「人間は何を食べてきたか 8巻セット [DVD]」 出演: 高畑勲, 宮崎駿, 桜井洋子, 友宗由美子, 戸田桂太 (販売元: ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント 2003年2月)

人間の食を問う貴重な記録

1985~94年にかけてNHKで放送されたドキュメンタリー番組が8巻セットのDVDとして販売されたものです。巻末に高畑勲、宮崎駿両氏を交えた座談会が収録されています。高額ではありますが、私自身はこのDVDの一場面をかなり頻繁に思い出すことになっており、手元に置く価値のあるものだと思います。

 

特に思いだすことの多い場面を振り返ってみましょう。

麺の回では、ベトナムで舟に乗せて売りに来るホーをニコニコとしながら食べる中年男性の姿が印象的です。麺は東アジア・東南アジアを中心に広まった食品であることを知りました。

クジラの回では、命がけでクジラを獲る人々の暮らしから、環境を守りながら生きるとは、どのような生き方なのかを教えられます。

肉の回では、肉が本来保存食であり、ごちそうではないことを知ります。自宅で豚を解体する農家の様子も印象的です。

乳製品の回では、本来のチーズの作り方と、それとはあまりにもかけ離れた近代的なチーズ製造の在り方を比べることで、不純物は混じらないかもしれないが、時の経過という重要な要素をそぎ落とした近代的なチーズ作りに疑問を抱きました。

ジャガイモの回では、凍ったジャガイモを足で踏んで脱水するアンデスの乾燥ジャガイモ、チーニョが印象的です。

ナマコ漁では、海に浮かべた舟の上で暮らすモーケン族が主役です。陸上には墓地の土地くらいしか持たないモーケンが生計を立てる術としてきたナマコ漁は、大型漁船による乱獲で難しくなっていきます。それは漁師とMBAの世界そのものです。

アフリカの川のナマズ漁は、黒人たちの仕事熱心な様子を伝えています。また、魚と米という文化がこの地域に展開されている点も興味深く感じました。

私が特に好きな回がスイカです。この回に登場する人びとこそ、狩猟採集者の最後の生き残りであるブッシュマンであったことを私は後になって知りました。彼らの暮らしを知ると、動物と同じように生きることの安心感や充実感が伝わってきます。

雑穀の回では、一家を束ねる家長のTシャツがキャラクター付きのかわいらしいTシャツで、ぼろぼろになっていたことが印象的です。娘たちが遠い道のりを歩いて市場に農作物を売りにいき、買いたたかれる様子や、袋に入ったアイスキャンディを食べる様子なども思い出します。

現在では、もう現地に行っても出会えないような生活の様子が記録されていることもあり、貴重な資料であるといえそうです。