縄文生活の再現 (ちくま文庫) 文庫 – 1988/7/1
楠本 政助 (著)

出土品にならって釣り針をつくり、魚を釣る。モリで魚をつく。土器を焼いて使ってみる。竪穴式住居を作る。縄文時代の暮らしがよみがえる。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

縄文時代に使われていたという釣り針を見て、本当にこんな大きな針で魚が釣れたのだろうかと考えたことはないでしょうか。きっと、今よりもずっと自然が豊だったから、こんな釣り針でも間に合ったんだと、私などは考えていました。

この本を読むと、そんな考えは吹き飛びます。1980年に出版された古い本で、著者は縄文時代に多くの人が暮らしていた宮城県の人です。

本書の冒頭では、縄文時代の釣り針にならって作った大きな針と野生のカラムシから作ってハリスを使い、作家の開高健さんも参加して、海でアイナメを釣る場面が描かれています。魚を釣れることは実証済みで、この日は開高さんも縄文針での釣りに挑戦したというわけです。そして、20cmほどの小型のアイナメを4cmもある針でつり上げることができたのでした。

縄文人にならって針を作ったと書きましたが、同じように針を作るまでには長い試行錯誤の時間がかかっています。特に、釣り針はたくさん必要だったと考えられるため、加工しにくい鹿の角を使いながらも短時間で完成できる必要がありました。したがって、加工方法を突き止めることは極めて重要でした。やがて偶然の経験から水につけて削ればよいことがわかったのです。

出土する針には返し(アグ)のついたものとついていないものがあります。返しのついたもののほうが後の時代に登場します。返しがついているとエサが外れにくいのですが、後期になっても返しのついていない針のほうが多く出土します。本書では、浅場の釣りには返しのない針と使って魚を外しやすくし、深場ではエサが脱落しにくいように返し付を使ったのではないかと推測されています。

こうした工夫は釣り針だけでなくモリにも見られます。獲物に刺さった後で抜けにくく、かつある程度の強度を備えたモリを作るための試行錯誤を見て取ることができるのです。当時の森は、後のアメリカ式の捕鯨モリや、現在のツバクロモリとも共通性があるというから驚きです。


竪穴式住居を作って一泊してみる実験では、火を焚いた効果か蚊が襲来しないことや、今回は屋根の下地を省略したために朝方冷え込んだことなど、体験することの大切さが見えています。

この実験には、近所の学生なども数人参加しており、ウサギを弓で射て当時の石器を使って解体する実験では、初めて使う石器なのに、皮をはぐときと骨から肉を外すときに使い方を変えて、慣れた手つきで解体する様子が記されており、ここでも石器の完成度の高さに驚かされます。


オスのキジをおびき寄せるキジ笛があったり、漁のための網を作る編み棒があったり、縄文人はさまざまな方法で獲物を得ていたこともわかります。また宮城県でアスファルトが使われており、秋田県の産地との経済交流があったこともわかります。


こうして、現実的なものとして当時の生活を具体的に想像しながら実験によって確認していくことにより、縄文時代の人々がどのような暮らしをしていたのかが、鮮明に思い浮かぶように感じられました。縄文時代の生活に関する本は何冊か読みましたが、特に、縄文人を身近に感じることができ、縄文人はアウトドアの達人であったのだなどと改めて感じることになりました。お勧めの一冊です。