「世界の台所博物館」1988 宮崎玲子(著)

火を使い、水を使って穀物や肉を調理し、食べる。気候や歴史が台所空間のあり方に大きく影響する

 

伝統的住まいの探訪に魅了された建築士が、1982年の建築士会の催しで、それまでに世界各地で集めた資料のまとめ方を検討するうちに、先行資料には、住まいと食空間の流れを世界にわたって示したものはどこにもないことが判明。個々の地域の記録を世界地図上でプロットしていくと、北と南で鍋の使い方に大きな違いがあるという事実を見いだしました。北の地域では鍋を火の上に吊るし、暖房と調理を兼ねて火を使うのに対し、南の地域では火を焚く時間も短く、鍋を置いて使うというのです。また南の家は風通しもよいため、煙突もありません。

水もまた南北で大きく違う使われ方をしていました。北の暮らしは水の使用量が少なく、南の暮らしは多いのです。そこにも生ものの腐りやすさなど、気候の影響が推測されています。


こうした題材を扱った本書は、各章を「〇〇と台所空間」という見出しで統一してあるように、建築士らしく台所空間に着目しつつ、世界各地の伝統的な住まいに取材してあることで、人類学・民族学・民俗学的色合いが濃い内容となっています。写真も豊富に掲載されているため、人が気候や歴史・文化の影響を受けながらどのように暮らしていたのかを想像させます。

主に南北での火(2章)と水(3章)の使い方の違いを取り上げたあと、第4章「食文化と台所空間」では、主要食糧の分布から、世界各地での調理法、台所の呼び名、伝統的な貯蔵法(倉)、江戸の長屋やサーミの伝統住居・各地の上流階級から住宅不足の都市生活まで広くカバーすることにより、食を中心として住まいのあり方について振り返るのに良い資料となっていると思います。


余談になりますが、この傾向に当てはめると、北に中心のあった縄文時代の土器は吊るして煮炊きするために使われることが多く、西南日本に中心のあった弥生時代の土器は水を運ぶために使われることが多かったのかもしれません。

世界の台所博物館
世界の台所博物館

 

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