「縄文日本文明一万五千年史序論」太田龍(著)(成甲書房 2003年7月)

毒にもなるが価値観の相対化のためにぜひ読みたい本 


太田龍氏は、本書の裏表紙に掲載された著者近影による限り、もうずいぶん前に亡くなった私の祖父に似た雰囲気があり、私は個人的に親近感を寄せています。


本書では、日本文明は縄文時代から続く世界でも特異な文明であり、爬虫類人型異星人の関与した西洋史とは異なり、地球原人が作った文明であると規定しています。

このような理解の仕方は突拍子もなく、またエスノセントリズム(自民族中心主義、自文化中心主義)と呼ぶほかない性質を持つ一方で、価値観を相対化するためにはぜひとも必要な取り組みであるということもいえそうです。

本書には、脳、進化論、文明開化、天皇制などさまざまな話題がちりばめられ、多くの珍しい書籍も紹介されていて知的好奇心を呼び覚ましてくれます。さらに重要なことは、現在の状況が、決して国際化などという呼び名にふさわしい状況ではないことをいやおうなく理解できる点があります。

夏の高温多湿、豪雪地帯の存在、厳しい気候、多雨、険しい地形、海で大陸と隔てられた東端の可住地という地理的位置、世界で最初に土器を作った縄文の祖先、ポリネシア系の母音を中心とした音声認識など、過酷さと恵の両方を与えてくれる日本列島の位置と、この土地だからこそ残すことのできた叙情性の大切さを見直す一つのきっかけとして、本書を一読することをお勧めします。

本書で取り上げられている話題の一部

・新ダーウィン主義
・ダーウィン、マルクス、ニーチェが非ユダヤ人の心に及ぼした破壊的作用
・文明開化と明治五年の改暦の意味
・一般大衆向けペテンとしての「自由・平等・博愛」
・米大統領選から手を引かされたリンドバーグと当選したルーズベルト
・福沢諭吉
・魔女裁判による900万人の犠牲者
・日本占領と日本民族皆殺しを目的としたイエズス会(ローマ・カトリック)
・改暦に疑問を提出した国学者、権藤成卿
・長谷川如是閑「海と日本―日本文明の淵源について」
・完成された文字体系(漢字)を吸収して消化した珍しい例である日本語
・原始の尻尾を付けたような言葉である日本語:角田忠信『日本人の脳』
・地球支配の起源、アーリア人(コーカソイド)
・『純日本の聖典、闘戦経』(釈義・笹森順三)
・柴田良保『村松愛蔵伝』
・西洋式科学技術によって地上の生命は滅びると分析した岡潔
・「西洋」の内に踏み込めば「ユダヤ」に当たる
・すべての文明は自然を破壊して断絶したが日本文明は例外
・フリーメーソンとルシファー暦、日本のメーソン本部
・田村麿将軍に討伐された蝦夷は大韃靼人/衛藤利夫『韃靼』
・17世紀以降の西洋式科学アカデミズムの総本家、英国王立協会には、薔薇十字会が深く関与
・古代天皇陵が被差別部落にあった不思議
・岡潔、小林秀雄対談集『人間の建設』
・西洋を野蛮と見抜いた西郷と西洋を文明と見た大久保
・占領軍によって不当に糾弾される豊臣秀吉・徳川家康
・フェルプス『バチカンの暗殺者たち』
・マキャべリズムは秘密結社の採用してきた原理
・注目すべき在野の歴史学:八切止夫、菊池山哉、山本健造、鹿島昇



追記:
私は、動物としての人の性質と、貯蓄を目的とした労働が文明を生むという把握の仕方をし、主要文明が日本とは違って比較的乾燥した土地に生まれたことに着目すれば、太田龍氏のいう爬虫類型異星人を持ち出すことなく、他の文明の崩壊と再生、侵略を繰り替えす性質を説明できると考えています。縄文以降の日本の文明は、太陽光の強さと、降水量の多さとが影響して、植物の繁殖力の強い土地に生まれた珍しい文明であったといえるでしょう。


日本の歴史についても、日本の本当の主役は藤原氏であり、天皇家はユダヤ教に利用されるキリスト教のようなものであると把握しているため、太田龍氏のように天皇の存在を重視することはできません。
以上2点はこの際明確にしておきます。


また、西洋文明を否定することによって対立をあおる意図はなく、生物として必然的に争い、快を求める人間が人工化を進めていくことに対して疑問を抱きながら、このような本で世界の実情を分析する必要があると考え、取り上げることにしました。