「ヒトはイヌとハエにきけ―異種間コンタクトの方法」J・アレン・ブーン(著)上野圭一(訳)(講談社 1998年4月)

生命の共通性と人間の限界

新聞記者の後、ハリウッドでプロデューサーとして活躍し、スター俳優犬であったストロングハートとの共同生活を経て、1940年代に、ヒトは全生物と心を通わせることができるとして話題になり、「ハリウッドの聖人」「銀幕王国の聖フランシス」と呼ばれたJ・アレン・ブーンによる著書。
イヌ、ガラガラヘビ、スカンク、アリ、ハエ、バクテリアなどが登場します。

私はアボリジニ、ピダハン、ヤノマミなどは、動物をどのように認識しているのだろうかと想像しながら本書を読みました。


そして、おそらく本書の内容には、プロデューサーであった著者による誇張が含まれているのだろうと判断しました。

子どもの頃、私は、家で飼っていた猫と少し心が通じあっているなという経験があり、動物と人間とは同じ命を共有する仲間であるという認識を持っています。ですから、著者が、動物と人間とには相互の意志の疎通が可能であると主張するところに違和感を持ちません。


しかし、その根拠として神を持ち出すところには大きな違和感があります。

アフリカのサン族がヘビを見つけ次第殺すように、自然の中で生き、動物の習性を良く知り、部族の祖先は動物であったと信じている人々であっても、著者のように、アリやハエと意志疎通が可能であるとは考えないでしょう。

そのような考えは、文明化された人間が抱いていまう理想主義的幻想なのでしょう。
確かに、植物でさえ、話しかければよく育つといいます。おそらく、愛情深く観察し、愛情深く世話をすることが、生育に繋がっているのでしょう。
同じように、バクテリアやハエにもこちらの態度が伝わることでしょう。
だからといって、ハエから、高度な返答が返ることはなく、それは、受けてである人間が作りあげた答えにすぎないでしょう。

スカンク、毒蛇、ハエという、避けたくなる相手に対する既成概念から脱却できた著者が、宗教観や理想主義、有益さなどの価値観から抜け出せておらず、人間にとっての大きな限界を感じました。

少なくとも、現在の食肉産業が失ってしまった同じ命を宿している動物という視点を再確認する上では重要な書物でしょうが、最終的に神と聖書が持ち出されていることと、おそらく誇大な演出が含まれていると私には思われることから、私の評価は高くなくなってしまいました。

特に面白いなと思った部分

「イヌにかんする事実がある。また、イヌに関する意見がある。事実はイヌのものだし、意見は人間のものだ。イヌにかんする事実が知りたいのなら直接イヌから知るしかない。意見がほしいんだったら人間にきけばいい。 – 62ページ

 

ストロングハートが教師としてしなければならないのは、ただかれ自身であることだけだった。一方、わたしのつとめといえば、かれがするすべての行動を注意深く観察して、そこに特徴的な美質を探り出すところにあった。類語辞典はその美質の名称を探すことに役立ち、国語辞典はその美質の深い意味を知ることに役立った。それがわかるとノートに書きつけ、瞬間瞬間に生きるかれが、たったいましたばかりの行動について考察した。 – 72-73ページ