「日本の風土病―病魔になやむ僻地の実態」佐々学(著)(法政大学出版局 1957年12月)

昭和中期における代表的な風土病(ツツガムシ、マラリア、マムシなど)の実態を調査

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半年ほど前に、『黒潮の瞳とともに─八丈小島は生きていた』を読んで、八丈小島特有の風土病としてフィラリアがあったことを知りました。このような風土病として何があり、自然の中で暮らすとき、ヒトはどのようなリスクを負うのかを知りたくてこの本を読みました。

「あとがき」によると、本書は東大教授である著者が仕事の余暇として書き綴ったものであるとのことです。教科書として採用されることのない内容であるという自覚と、読者の中から風土病の解決に取り組む人が登場することを期待しているという目的が記されています。

八丈小島の部分を読みましたが、住民の3分の2が罹患しており、ニ、三日続く熱の出る発作(当初は年に二、三回、ひどくなると月に数回)や、象皮症、それによる化膿のしやすさや丹毒という影響があるそうです。著者らは治療薬としてスパトニンを持ち込み、劇的な効果があったものの、一回目の投薬時にフィラリアが暴れることによる発熱発作があることなどから、真面目に飲まない人も多く、結局長期的には罹患率に変化はなかったようです。

がむしゃらに働くことは必要のない暮らしと、不都合があっても受け入れていくことを選ぶ人の多さを思います。

マラリア、デング熱など、今では国内での流行を聞かない病気も、この頃には風土病として存在していたこともわかります。この頃の流行には、海外からの人の移動が大きく影響しているようです。

ハブとマムシの咬傷についても記されています。血清のなかった頃はどうしていたのかと疑問に思っていたのですが、血清を打たなければ必ず死ぬというものではなく(治癒期間は長くなる)、また血清を打っても切開して毒を出す必要はあると知りました。WikiPediaによると近年は死亡例はほぼないとのことで、血清の普及が要因となっているようです。

ツツガムシ、日本住血吸虫など、さまざまな風土病の分布地は、必ずしも連続しているのではなく、遠く離れた地域に点在しており、わずかな環境の違いや偶然によって、また人々の暮らし方によって影響が異なることもわかります。

本書は、僻地に存在することや、あえて隠蔽されることが多いことなどから、実態調査の進んでいなかった風土病の記録を、余暇を使ってまとめあげたという点で、なかなか他にはない貴重な内容を含んでいるのではないかと思われます。

内容の紹介

「ブユの被害」
私の知っている外科のお医者さんで、東京の高級住宅地に開業している人が、、「九月になると門前市をなすよ」といっていた。 軽井沢、蓼品、上高地、志賀高原と避暑にいっていた人たちが、できものをたくさんつくり、なかには化膿がすすんで切開手術を要するものもある。
(中略)
こうした場所の地元の人たちが毎日ブユに刺されて同じようなことになったらたまらないが、よくしたことにブユにはたいてい免疫ができる。 – 156ページ