「モンサント――世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業」マリー=モニク・ロバン (著)、戸田 清 (監修)、村澤 真保呂 (翻訳)、上尾 真道 (翻訳)(2015年1月)

待望のモンサント本―課題と限界

私は本書を読み切ってはいません。拾い読みをしながら、書評の方向性を探っていきました。

まず、著者マリー=モニク・ロバンの経歴を確認しました。
1960年生まれのフランス人ジャーナリスト、ドキュメンタリー映像作家であり、ドイツのザールラント大学で政治学を学びました。その後、フランスのストラスブール大学でジャーナリズムを学び、ストラスブールでジャーナリズムを学んだ後、France 3で短期間働きました。その後、フリーランス・リポーターとして南米に渡り、コロンビア・ゲリラなどを取材しました。
ドキュメンタリー映画はレイチェル・カーソン賞を受賞した『モンサントの不自然な食べ物』を始め、フランス上院議会などから多くの賞を受賞しています。

陰謀論的に考えると、奴らの手の内で踊らされている人なのかもしれないと思わせる経歴です。

本書の内容の充実ぶりは、目次を見るだけでよくわかります。 だが、しかし、すっぽりと抜け落ちている部分もあります。それは、モンサントという企業がここまで巨大化し、数々の問題を起こしながらいまも存続している背景の分析がまったくできていない点です。

実はモンサントそのものの問題ではなく、モンサントのような企業を作って世界に大きな影響力を与えることができる人びとが存在しているのではないかというところまで考えさせなくてはいけないはずなのです。 特許や裁判という形式がモンサントを活かし、人間中心主義、合理主義が自然の摂理に反する行為を正当化しているという事実を認識して、西洋人たちが信じ、世界に広げてきた価値観そのものを転換しなければ、モンサントを倒したところでイタチごっこが続くだけであると気づかなければならないはずなのです。

本書の価格と分量にも大いに問題があります。 もっと安く、少ないページ数に圧縮することで、モンサントについて知り、アスパルテームなどの人工甘味料、異性化糖(液糖)、除草剤などの危険性についての知識を多くの人に広めるには、この分量と価格は負担が大きすぎます。

本書は、以上の点を踏まえて、拾い読みするつもりで読むのであれば十分役立つでしょう。一方、本書の提示している価値観では、これまでの多くの活動がたどった道と同じように、多くの労力を投入しながら結局世界はもっと悪い方向に進むだけであるという道を歩むことになると知っておく必要があります。

権力が決して広く共有されたことはなかったという陰謀論に基づく知識を持ち、権力者の都合のよい価値観だけが広められ得ているという事実に気づき、人間中心の価値観は自然の摂理と反しているのだと認識したとき、本書の内容はこれとはまったく違った内容になるでしょう。 西洋の合理主義、人間中心主義では問題は解決しません。

本書は多くの精力をつぎ込んだ力作であり、モンサントの実態を明らかにした待望の書として、関係者の努力に頭の下がる書です。それにも関わらず、踏み込みの足りなさにおおいに限界と問題を感じてしまう書でもあります。

目次を以下に示します。

[はじめに] モンサントとは何か?   11
      調査の必要性   11
      数億ヘクタールの農地に広がるGMO   15
第I部 産業史上、最悪の公害企業
第1章 PCB―いかに地球全体が汚染されていったのか?   22
      ゴリアテに立ち向かうダビデ   23
      モンサント社の誕生   25
      五〇万ページの機密書類   30
      モンサント社は、知っていたが何も言わなかった   33
      モンサントの[犯罪行為]   37
      共謀と情報操作   40
      ダイオキシンに匹敵する猛毒   45
      相変わらずの否認   50
      PCBはいたるところに   55
第2章 ダイオキシン(1)―ペンタゴンとモンサントの共謀   57
      地図から消えた町   58
      追及を免れるモンサント   62
      除草剤2,4,5-Tとダイオキシン   65
      戦争バンザイ!   69
      ベトナム枯葉作戦   72
      有毒性の隠蔽とダウ・ケミカルとの共謀   76
      モンサントの言い逃れ   80
第3章 ダイオキシン(2)―情報操作と贈収賄   84
      でっちあげの科学研究   85
      「内部告発者」狩り   89
      モンサントに言いなりのEPA   94
      政府と企業の共謀   100
      贈賄―リチャード・ドール事件   103
      ベトナムの奇形児たち   107
第4章 ラウンドアップ―雑草も消費者も“一網打尽”の洗脳作戦   115
      世界でもとも売れた除草剤   116
      二つの不正事件   119
      虚偽広告   121
      問題だらけの農薬認可手続き   124
      「ラウンドアップは、ガンを誘発する最初のステップ」   129
      「胎児の殺戮者」   134
      コロンビアでの「枯葉作戦」   139
第5章 牛成長ホルモン問題(1)   143
      FDAからの突然の解雇   144
      内部告発者から届いた段ボール箱の秘密データ   150
      『サイエンス』誌に掲載された改竄論文   154
      ガン発生率の増加、耐性菌の繁殖   159
      なりふりかまわぬ学術誌への圧力   162
      官/産の「回転ドア」の世界   166
第6章 牛成長ホルモン問題(2)―反対者を黙らせるための策略   172
      訴えられるのが怖ければ、ラベルを貼るな!   173
      違法な宣伝活動   178
      牛たちの「大殺戮」   182
      ロビー活動とメディア・コントロール   185
      カナダ政府への贈収賄未遂事件   194
      GMOの前哨戦   200
第II部 遺伝子組み換え作物―アグリビジネス史上、最大の陰謀
第7章 CMOの発明   204
      産業と科学の結婚による遺伝子工学の誕生   206
      「緑の革命家」と「ユーフォリア」(多幸症者)たち   210
      「ラウンドアップ・レディ」―初のGMO作物の特許申請   216
      ホワイトハウスへの工作   221
      「見せかけの規制」   226
      「実質的同等性の原則」―陰謀の核心   229
      トリプトファン事件―遺伝子操作による死の食品公害   233
第8章 御用学者とFDAの規制の実態   240
      FDAの専門家たちの同意はなかった   241
      「規制」の裏側   244
      どのようにFDAは骨抜きにされたか?   248
      モンサントの四つの「回転ドア」   253
      「私は激しい圧力にさらされていた」   256
      御用学者の使い方   261
      「研究」の実態   265
      「最悪の科学」   270
      世界中に張り巡らされた恐怖のネットワーク   274
第9章 モンサントの光と影―一九九五~九九年   276
      遺伝子組み換えジャガイモ   277
      批判する者は吊るし上げ―アーパド・パズタイ事件   280
      モンサント→クリントン大統領→ブレア首相―圧力のネットワーク   286
      モンサントの“導師”ロバート・シャピロ   289
      「新たなモンサントは、世界を救う!」―シャプロの夢   294
      種子争奪戦と急拡大するモンサント   297
      ターミネーター特許―シャピロの挫折   303
      モンサントの危機   308
第10章 生物特許という武器   311
      認められた生物への特許   312
      収穫した種子を植えると訴えられる   315
      「遺伝子警察」モンサント   319
      訴えられて破産する農民たち   323
      「モンサントから身を守るのは不可能なんです」   327
      パーシー・シュマイザー裁判   330
      GMO汚染による「スーパー雑草」の誕生   335
      GMOによって除草剤使用が増加していく   338
      バイオテクノロジーの隠された側面   342
      GMO農業は「経済的災害」   345
遺伝子組み換え小麦―北アメリカでのモンサントの敗北   348
      モンサント最大の敗北   349
      反GMOのシンボルとなったオオカバマダラ   354
      スターリンク事件   358
      「小麦で繰り返すな!」   363
      遺伝子汚染は避けられない―GMOアブラナによって消滅した在来種   366
第III部 途上国を襲うモンサント
第12部 生物多様性を破壊するGMO―メキシコ   372
      紀元前五千年からの伝統品種トウモロコシがGMOに汚染される   373
      メディアからリンチを受けた生物学者―イグナシオ・チャペラ   376
      モンサントの「卑劣なやり口」   380
      屈服する科学誌と大学   384
      奇形トウモロコシの繁殖   388
第13章 「罠」にはめられたアルゼンチン   391
      モンサントの「罠」   392
      経済危機と「魔法の種子」   395
      大豆が国を乗っ取る   398
      RR大豆の雑草化と痩せ細る大地   402
      むしばまれる健康   404
      閉ざされている救済への道   408
      原生林が大豆畑へ、そして不毛の土地へ   411
第14章 GMO大豆に乗っ取られた国々―パラグアイ、ブラジル、アルゼンチン   416
      ラウンドアップによって殺された少年―パラグアイ   417
      種子の密輸によって広まったGMO   419
      モンサントの戦略に陥落してゆく国々   423
      共同体と生活を破壊する新たな征服者   428
      GMO反対運動への暴虐な弾圧   431
      「食料支配によって、民衆を政治的に従わせる……」   436
第15章 農民を自殺に導くGMO綿花   441
      次々に自殺に追い込まれる農民たち   442
      いかにGMO綿花を普及させたか?_   446
      実際には収益が上がらないGMO綿花   452
      市場の独占とメディアを使った隠蔽   456
      害虫の耐性という「時限爆弾」   460
第16章 いかに多国籍企業は、世界の食料を支配するのか?   465
      「第二次『緑の革命』の唯一の目的は、モンサントの利益を増やすことです」   466
      生物特許と「経済的植民地化」   471
      知的所有権協定の裏側―WTOにうごめく多国籍企業   474
      「ほんとうの悪夢」―WTO   478
[おわりに] 「張り子の虎」の巨大企業   481
      「企業の評判は、もはやリスク要因の一つ」   482
      環境格付けは「CCC」   484
      「MON863トウモロコシ」訴訟―明らかになった”規制の不備”   487
      無数の訴訟の可能性   495
[新版への補論] 本書とドキュメンタリー映画への世界的反響について
―「着実に持続する成功」
      ペルーのリマにて   499
      世界各地での驚くべき反論   502
      モンサントからの攻撃とその援護者たち   506
      状況は動いている!   514
[日本語版解説] モンサントのGMO作物と日本   遺伝子組み換え情報室 河田昌東
      モンサントの歴史とアメリカの戦争   519
      世界のGMO作物栽培の現状   520
      すでに日本に影響を及ぼしている「GMOナタネ訴訟」   521
      GMO作物の安全性―いかに「科学的」根拠がデタラメか   522
      第二世代GMO生物の開発   524
      モンサントへの逆風   524
   マリー=モニク・ロバンの活動いついて……アンベール・雨宮裕子   526
   訳者あとがき……村澤真保呂   531
   本書に関係する文献・資料・情報源の紹介……作成:戸田清   565
   原注   561
   著者・訳者紹介   566

たとえば、「トリプトファン事件」を読むと、遺伝子操作に本当に問題があるのかどうかがわかりにくい記述になっていたりします。これはよくない本の特徴の1つです。

本文中で言及はあるものの、目次の項目に「アスパルテーム」の文字が見えない点も非常に気にかかります。

日本はモンサントの製品の多くを拒否できないでしょうし、拒否できない理由はモンサントだけに限定されないはずです。

多くの箇所を拾い読みしましたが、わかったようなわからないような内容で終わってしまう箇所が多くみられ、これも本物ではない本の特徴の1つです。
なかなか評価の難しい本でした。