「ハイエナの生態」H.クルーク (著)、平田久(翻訳)(どうぶつ社 1978年9月)

1972年に出版された研究成果とは別に、ハイエナの全体像を一般の人に正しく理解してもらうことを主眼に書かれた、モノクロ写真を多数収録した本 

→目次など


本書には、複数の目的があるようです。

キャッチコピーに書いたように、姿かたちや声、ライオンの後ろで騒ぎ立ててエサを奪おうとする様子などから、悪評の高い動物であるハイエナの本当の姿を伝えることが一つ。 「訳者あとがき」にあるように、野生動物たちの動的で変化に富んだ生活を想像できる情報を提供することが一つ。 そして、「プロローグ」にあるように、狩猟生活を送っていたころの人間の生活を探るヒントを得ることも研究の目的とされています。

そのため、ハイエナの生態に限らず、獲物となる動物たち(ガゼル、ヌー、フラミンゴ、シマウマ、サイ)との関係や、競争相手(リカオン、ライオン、人間、ジャッカル、ハゲワシ)との関係、また地域(セレンゲティとゴロンゴロ)による違いなど、動物たちが互いに関係し合い、地域の状況に合わせて生活を変えながら暮らしていることを知ることのできる内容になっています。

日中、ライオンたちの後ろで騒ぎ立てるハイエナたちの様子が多く観察される理由も書かれており、納得のいく説明になっています。

子育てや群れの社会生活については、『森の奥の巨神たち ロボットカメラがとらえたアジアゾウの生態』にあるゾウの様子ほど詳しく説明されてはいないものの、テリトリー(なわばり)争い、メスと子供が優位である個体間の関係、メスのほうがオスよりも大きいことなどから、人間社会に対する示唆もある程度は得られるかもしれません。

モノクロ写真が多数収録されており、文字よりも写真の割合のほうが多い印象です。 肉食動物の記録ですので、それなりにエグイ写真もけっこうあります。 ハイエナ以外の動物などの写真も多数収録されています。ちなみに、ペットとしての性質は、いくぶん粗野ではあるものの、ネコとイヌの中間的な性質で、情が深く利口だとのことです。

私自身は、この本を読むことで悪評高いハイエナの印象が良くなったというより、かえってハイエナとは凶暴な生き物だなという印象を強くしてしまいました。肉食動物として生きると言うことの意味を改めて考えさせられた気がします。一般向けに書かれているだけに読みやすい本です。

内容の紹介

ブチハイエナあるいは「フィージィ」(アフリカ原住民のスワヒリ族では、ハイエナのことをこう呼んでいる)は、獲物狩りの方法や社会構造の上で、原始人が持っていたと考えられる、いくつかの共通した特徴を備えている。 ハイエナたちが獲物を仕とめたときや、おたがいの出会いのときに行う一連の行動も、おそらく、初期の人類と共通した特徴の一つであろう。 だとすれば、私たちの遠い祖先の暮らしぶりを知るには、アナウサギやクマ、あるいは鳥類のような動物を通して考えるよりも、ハイエナを通して類推する方が、おそらくは解りやすいだろう。 – 9ページ

獲物狩りに対する適応
ハイエナが獲物を狩るときは、一頭もしくは群れをつくって、あるいはその中間的な形をとることまで含めて、実にさまざまな攻撃方法を用いて、多くの種類の動物を獲物にしている。 しかも彼らは、実際に追跡する獲物と出会う前から、すでに、どの種類の動物を狩るのかを定めているように見える。 たとえば、近くにシマウマが見当たらなくても、私には、ハイエナの一団がシマウマ狩りを行おうとしているのが判る。 そしてしばらくすると、案の定、ハイエナたちはシマウマを捕捉するのである。 なぜシマウマ狩りをするということが判るのだろうか。 獲物狩りに入る前から、目標を定めておく利点はなんなのだろうか? – 66ページ

遊び
よく見かけるハイエナの写真では、ハイエナが厄介者であるかのように写されていることが多い。 そのような写真には、人間がハイエナに対して抱く、あらゆる心配といったものがこめられてる。 しかしハイエナという動物は、ライオンや人間が干渉したり追い払ったりしなければ、実に様々な行動を見せてくれるのである。 たとえば、ハイエナは遊びが好きで、成獣になっても、非常に激しいゲームに加わる。 そして、何よりも水の中でじゃれ合うのが好きな動物である。 – 133ページ

コミュニケーション
私たちは、ハイエナがかなり集団的な動物だと考えているが、これはかなり皮相な見方である。 ハイエナは共同して敵を防ぎ、繁殖し、そして共同して獲物を狩る。 確かにその通りなのだが、しかし、集団で行動するのと同じように、少なくとも集団の合間には、それぞれのハイエナは単独になって行動している。 集団を作ったり単独になったりというふうに、社会的に融通がきくことは、ハイエナ社会の重要な特徴である。 この性質があることによって、ブチハイエナという種は、あらゆる食物を効率よく探し出すことができるのである。 – 142ページ

狩猟採集生活やチンパンジーの群れに似ています。ちなみに、ハイエナのメスの生殖器はオスの生殖器に似た形になっているそうです。