「猫になった山猫」平岩由伎子 (著)(築地書館 2002年4月)

猫について語るなら、欠かせない一冊 ―― 雌猫にやさしい雄猫、シャムの血が混じって変わっていく猫の姿形、連合する兄弟猫、人を襲う野生化した猫…

→目次など

 

親を失った子豚に乳を呑ます、ブラジル、グアジャ族の若い母親の写真が表紙に採用されています。

犬科猫科の研究に生涯をささげた在野の動物学者、平岩米吉氏を父に持ち、東京自由が丘でハイエナ、オオカミ、ヤマネコなどに囲まれて育った平岩由伎子さんによって書かれた猫についての本であり、ざっと見るだけでも印象に残る内容になっています。

前篇と後篇から成ります。
前篇では、猫の歴史(家畜化の起源)から日本への渡来と日本猫の特徴、短尾猫の出現、野生化した猫、日本猫の保存運動、日本猫の繁殖などが扱われています。

後篇では、「私の見た猫たちの生活」として、父親の遺志をついでからのめりこんでいった猫についての知見がまとめられており、祖先が砂漠生まれであることによる猫の特徴、生殖パターン、兄弟連合、縄張り、犬と猫の違い、家畜化の影響などが扱われています。

図版が多く挿入されており、野生化して人を襲った猫の皮、江戸時代の猫の墓石、36歳の長命猫の写真などが掲載されています。

多少文章のこなれない部分もありますが、面白い本です。
最新の研究を大幅に加筆した改訂版が出ています。

内容の紹介

 

○日本の山猫と野生化した猫
  日本では縄文時代の中期以前の貝塚などの遺跡から山猫のものと思われる骨が出土しているから、当時は本土の北から南まで山猫が棲息していたのだろう。
  しかし、現在では日本にいる山猫は対馬の対馬山猫、沖縄の西表島にいる西表山猫の二種類だけである。 それもごく少数が辛うじて生き残っているだけで、絶滅が気づかわれている。
  そうしたほんとうの山猫のほかに、日本には古くから南は伊豆諸島、青ヶ島、小笠原、薩南諸島などの離島や北は日本海に面した北陸、山陰などの豪雪地帯に、人を襲う凶暴な山猫と呼ばれる野生化した猫の存在が数多く語り伝えられてきた。 彼らは家猫でありながら、家畜以前の野生生活に戻ってしまったような猫だった。 それは人の住むそばにいながら、飼い主を失ったり捨てられたりした野良猫とは全く違う存在だった。 – 46ページ

 

これは私が以前から推測していたことなのだが、最近のDNAの調査結果から、ライオンの若雄ばかりの、つまり私に言わせれば兄弟の連合のグループのメンバーは、単一のプライド出身者ではなく、幾つものプライドから出た混成軍であることがわかったという。
  大型獣が獲物である彼らにとって、同じ母のふところで育ったもの同士でなければ連合しないなどという贅沢なことは、厳しい野生の条件のもとでは成り立たないのだろう。 – 160ページ

動物の生態を調べていくと、動物たちもヒトと同じような心を持ち、状況に応じて生態を変えながら生きているということがわかってきます。 ヒトと動物を区別したり、特定の動物はこういう生態であると決めつけていくような方法では、真実は見えてこないのでしょう。