「ミクロネシア民族誌 (1943年)」松岡静雄 (著)(岩波書店 1943年1月)

南洋庁の協力を得て新たに資料を集め元海軍大佐がまとめた、日本の委任統治領となった南洋群島(ミクロネシア)の民族誌 

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ミクロネシアとは、太平洋に浮かぶ島々のうち、フィリピンの東方、日本列島の南に広がる島々です。 戦前は日本の委任統治領となっていました。この当時に、日本国内でありながら、十分な資料のなかったミクロネシアの民族誌をまとめたのがこの本です。 これらの島々を治めるために設置された南洋庁の協力を得て、資料を集めたと記されています。

当初、岡書店から1927年に発行され、後に岩波書店から再版されたものが本書になります。

「総説」として、歴史、地理、住民、言語、伝説、遺跡、種族を示した後、信仰、社会、人事(妊娠、出産、育児、性的慣習、喪葬)、 身飾、居住、飲食、兵器、舟と航海術、工芸、日常生活という多様な項目について記されており、当時のミクロネシアの様子を知ることができます。

たとえば、「信仰」の章を見ると、キリスト教徒の割合は管区によって大きく異なり、最高のサイパンは100%、最低のヤップは6%となっています(現在ではミクロネシア全体で97%がキリスト教)。 
「生業」には次のようにあります。

「文明の空気の吹き込まぬ所では、止めを得ぬ場合の外働かぬというのが原則で、 二百五十年来マリアナ群島布教の耶蘇宣教師がしばしば口にした島民に対する第一の非難も懶惰という事であった」

文明が人々を勤労に追いやっているという現実を思わせます。

「飲食」によると、マリアナ諸島には稲作の跡が見られ、グアム島においてもスペイン人の到来以前から稲作がおこなわれていたのではないかと推測されています。 豚を連れて島に渡ったポリネシア人の祖先とは違い、ミクロネシアには豚はおらず、動物性食品は魚介が主であったそうです。 ミクロネシアとポリネシアの伝統的な暮らし方や人々の気質などを比較してみると新しい発見があるかもしれません。

なお、再版にあたり、同時期にミクロネシアに十年余り留まった土方久巧氏によってミクロネシア語で記された箇所の校正が行われたとあります。 土方久巧さんからも、多くの著書が残されています。