九州の邪馬台国vs纏向(まきむく)の騎馬民族 槌田 鉄男 (著) 352ページ 文芸社 (2019/10/1)

エンジニアとしての経験に基づいて事実を積み上げながら歴史を紐解く手法は、推理小悦を読んでいるような興奮をもたらす

 
私は日本の古代史に詳しくなく、この本に書かれている時代についてもあまり知識はありません。けれど、どうやら邪馬台国に卑弥呼がいた時代に大和と北九州に大きな勢力が存在していたらしいことや、邪馬台国の存在が日本の歴史からは消されてしまっていたらしいことは知っています。

魏志倭人伝に記された女王国までの道のりはそのままでは解釈できず、その結果として、邪馬台国のあった場所がさまざまに推測されています。私も少し調べてみましたが、結局、この本にもあるように、素人の大多数が支持している北九州にあったと考えるのが自然かなという結論に落ち着いただけでした。

この本では、ホンダのエンジニアとして、客観的事実に基づいて不具合の原因を探り開発にフィードバックするという業務についていた著者が、同様の手法をとって、卑弥呼から台与の頃の日本および東アジアで何が起きていたのかが推測されています。最終的には纏向遺跡の主が誰であるのかの推測も明記されています。

たとえば、魏志倭人伝の内容はどの程度信用できるのかを推測するにあたっては、記述の具体性や、着目されている内容などから、実際に半年以上にわたって倭国に滞在したうえでの記述であろうとの結論が出されてあります。

卑弥呼に贈られたものではないかという三角縁神獣鏡についてや、古墳および埴輪が作られるようになった経緯、魏志倭人伝に登場する文身の風習に関する疑問、卑弥呼が魏に使いを送った年など、当時の日本を取り巻く民族の動きを追いながら、おなじように説得力を持たせた記述が続きます。そうして、読み進めるほどに、謎が解かれていって興奮を覚え、久しぶりに、早く先が読みたいと思える本でした(ただし、終わりに近くなるほど、説得力は低くなっているように私は読みました)。

題名が示唆しているように、この本では、通説よりも早い三世紀の日本に騎馬民族がやってきたのだという説を展開しています。また邪馬台国は九州にあったとしてあります。これとは違う考えをお持ちであれば、この部分だけで読む価値のない本とみなしてしまうかもしれません。けれど、私は、急に古墳が作られ始めてあっというまに全国に広がり、関東地方にも大きな古墳が作られたという事実を説明するには、この本で主張されているようなできごとが起きたと考えるほうが自然であると考えます。日本と百済の親密性や、卑弥呼が日本書記や古事記に記されていない理由についても、この本の説に従えば説明しやすくなります。

3世紀の日本は、明治維新前後の日本と似た、大転換期であったようです。