コロポックルとはだれか――中世の千島列島とアイヌ伝説 (新典社新書58) 新書 – 2012/4/24 瀬川 拓郎 (著) 新典社

コロポックル伝説には裏付けとなる史実が存在すると考え探究した作品。残念ながら小人が実在するという結論にはなっていません。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

私は日本のいわゆるヤマトの地に生まれました。学校教育も熱心に受けたほうではなく、国内のことでありながら、沖縄、北海道、八丈など、中央から離れた土地の歴史はほとんど知らないままで過ごしきました。最近になって、そういった土地に関する本を読むに連れ、知らないことの多さに驚かされています。この本もそのような本の一冊でした。

本書では、コロポックルの伝説を単なるおとぎ話と考えるのではなく、史実を反映した話であると考えて、中世の北海道、特に千島列島の様子を調べながら、コロポックルの正体が推測されています。アイヌの中でも、千島列島の北部に移住した人々がその正体であると結論付けられているのですが、その過程において、和人の影響、オホーツク文化人の存在、ロシアの影響などに触れられています。

コロポックル伝説の根拠として上げられている竪穴式住居は、冬の住居として千島アイヌによって使われ続けていたことなど、おそらく縄文人たちも夏と冬とでは家を変えていたのではないかと思える記述などもあります。同じく裏付けとされている沈黙交易も興味深い交易方法です。

コロポックル伝説には、人類が繰り返してきた、文明世界の拡大とこれに伴う周辺民族の移動、分裂という動きが隠されていました。ピグミーやブッシュマンと同じく、北千島(本書の区分では、ウルップ島以北の千島列島)が逃亡の地だったわけです。人類史はロマンではなくあくまでも人々の生きる現実によって作られているようです。

ちなみに、コロポックル伝説の元になった、北千島アイヌの数は多くとも2000人と推測されています。生産活動を行わない場合に地球が収容できる人間の数はほんのわずかなのでしょう。