ナヤ・ヌキ ―大草原を逃げ帰った少女 (すばらしきインディアンの子どもたち) 単行本 – 1999/2/10 ケネス・トーマスマ (著), 浜野安宏 (監修), おびかゆうこ (翻訳) 出窓社

白人に寄与した「良いインディアン」の友人であったという無名の11歳の少女は、捕らえられた敵の元から逃げ1600キロの道のりを超えて故郷に帰った。彼女は伝承され「ナヤ・ヌキ(逃げた少女)」と呼ばれた

小・中学校の教師および校長として44年間教育関係の仕事に従事する傍らでネイティブ・アメリカンの伝承に魅せられて、自ら採集を続けた著者が、「すばらしきインディアンの子どもたち」シリーズとして出した中の1冊がこの本です。

1801年、まだ白人の姿の見えなかった、今のアメリカ・カナダ国境近く、モンタナ州に暮らしていたショショニ族の一団が、東のほうから鉄砲を持ってやってきたヒダツァぞくの集団に襲われ、数人の女と子どもが捕虜となり、連れ去られていきました。この本の主人公で、本当の名前は知られておらず、後にナヤ・ヌキと呼ばれた少女と、その友達で、後にルイスとクラーク遠征隊に同行して貢献したサカジャウィア(サカガウィア)も捕虜になりました。

奴隷として老婆の世話をさせられるようになった暮らしの中で、サカジャウィアの同意を得られないまま一人で隙をうかがって逃げ出し、ネイティブ・アメリカンとしての生きる知恵を使って部族の元まで無事帰り着くことができたのです。

イラストは原著と同じものが使われているようです。原著が発行されたのは1983年です。11歳の少女が一人きりで食糧を得たり、死んだバイソンの皮から靴を作り、病気から快復するという知恵や、クマ、バイソン、オオカミから逃げたり、夜の川を渡ったりという冒険が描かれて、少年少女をわくわくさせる内容になっています。しかし、クマに襲われる場面や、死んだバイソンに群がっていたコヨーテやカラスが一気に退散する場面、寒さの迫る中で凍えた様子が描かれていない点など、フィクションらしさを感じる部分はあります。

調べてみたところ、ケネス・トーマスマの著作について批評したページ (英語)が見つかりました。教師であったがゆえに、Luther Standing Bear/Ota K’te, Charles Eastman/Ohiyesa, Gertrude Bonnin/Zitkala Saなどのネイティブ・アメリカンとして子ども時代を過ごした人々の著作を簡単に入手できたはずなにのしていないことや、白人の価値観を持ち込んでいることが批判されているようです。細かい話としては、旅の中でバイソンの皮をなめすことも実際には難しそうです。

私自身は、バイソンを崖から追い落とす猟の方法や、北方に暮らし肉に頼る比重の多い生活に『子どもの文化人類学』のヘアー・インディアン同様の飢えが付いて回っていたらしいことなど、興味深く思いました。けれど、やはり都合よくつくられた物語として理解しておくのがよいようです。

なお、解説は、『「ことば」の課外授業―“ハダシの学者”の言語学1週間』の西江雅之さんです。