水
空から降る水をカメにためて暮らしていた人々は、ボウフラのわいた水を飲んで伝染病にかかったり、寄生虫に寄生されたりしておった。南アフリカのカラハリには、雨の降らない乾季を、野生スイカの水に頼って暮らしていた人たちもおった。
川の水も井戸の水も安全とはいえなかった。
けれど水のためにカネはいらなかった。
私の生まれた家は、井戸の水を使っていた。山の斜面に立つ家は、浅い井戸を掘るだけで地下水の水脈にあたり、湧き水のような美しい水を年中安定して得ることができていた。くみ上げには電気ポンプを使っていたから苦労もなかった。
村には、そんな恵まれた家ばかりではなく、平地に住む家であれば、農薬の影響も受け始めていたのかもしれない。そんな背景もあってか、簡易水道を引くことになった。我が家も水に苦労はなかったが、万一のためや、近所づきあいの関係もあってか、水道を引いた。
毎月基本料金分だけ水道の水を使い、料理にはおいしい井戸水をつかっている。
今住んでいる場所は、遠く離れた隣県に水源があって、おいしい水道水が提供されている。上下水道合わせて月額6000円ほどかかっている。安全性の高い水を安定供給してくれているわけである。
水道法が改正されて、平成30年12月12日公布された。これについて、東洋経済が報じている。
水道事業を民間委託できる水道法改正案が、12月5日午前の参議院本会議で通った後、同日午後の衆議院厚生労働委員会で可決された。同法案は今年の通常国会で衆議院ですでに可決されて継続審議となっていたため、反対弁論だけ行われた。これに野党は猛然と反発。
「外国人労働者受け入れを拡大する出入国管理法改正といい、漁業権を骨抜きにする漁業法改正といい、なぜ会期が短い臨時国会にこんな重要法案を次々に出し、短い審議時間で成立させようとするのか」と怒りをぶちまけた。
「通常国会での衆議院の採決から(同日午前の)参議院の採決まで、大きな状況の変化があった」
12月5日の衆議院厚生労働委員会で水道法改正案について反対討論に立った立憲民主党の初鹿明博衆議院議員は、新潟県議会で10月12日に「水道民営化を推し進める水道法改正案に反対する意見書」が採択された事例を挙げた。
同意見書は、老朽した水道施設の更新や耐震化推進のために民営化を進めることによって、「水道法の目的である公共の福祉を脅かす事態となりかねない」と警鐘を鳴らしている。その他、同意見書は水道を民営化したフィリピン・マニラ市での料金高騰やボリビア・コチャバンバ市での暴動の発生、フランス・パリ市では料金高騰に不透明な経営状態が発覚した事例まで挙げていた。
水道民営化のために任用された大臣補佐官
水道法改正の背景が怪しい――実は今年10月末に、そのような話を耳にした。11月9日に菅義偉官房長官の大臣補佐官を辞任した福田隆之氏をめぐる怪文書がきっかけだ。
福田氏は野村総合研究所で国が初めて実施した国家公務員宿舎建て替えのPFI(Private Finance Initiative、民間資金、運営で公共サービスの提供を行う)案件を担当した。2012年からは新日本有限責任監査法人のインフラPPP(Public Private Partnership、公民の連携で行う)支援室長としてコンセッション関連アドバイザリー業務を統括した。
そのような福田氏が内閣府大臣補佐官に就任したのは2016年1月で、PPP/PFIの活用を盛り込んだ「『日本再興戦略』改定2015」が閣議決定された5カ月後のことだった。ちょうどその頃、産業競争力会議も「成長戦略進化のための今後の検討方針」を決定。「観光振興や人口減少等の地域的、社会的課題に対する公共施設等運営権方式を含めたPPP/PFI の活用方策を検討するとともに、 積極的な広報活動や地域の産官学金による連携強化等により、広く地方公共団体や民間等の関係者の理解促進や機運醸成を図る」とPPP/PFI導入の本格的取り組みを宣言した。
これを主導したひとりがパソナグループ代表取締役会長を務める竹中平蔵氏で、同氏が主導してPPP/ PFIの活用促進に向けた環境整備について検討した「産業競争力会議フォローアップ分科会」などには福田氏が参加していた。福田氏の補佐官登用も竹中氏の意向があったと言われている。
内閣府は2018年2月9日、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律の一部を改正する法律案」(略称PFI法改正案)を国会に提出した。同法改正案は6月13日に成立し、8月1日から施行。水道法改正を待つばかりだったが、同改正法案は日切れ法案として継続審議に付された。
しかし臨時国会で水道法改正法案が成立することはほぼ確実で、そうなると水道事業の民営化に向けて本格的に始動するはずだったが、ここで思わぬ逆風が吹いた。外国でのひどい失敗例や、高いコストを負担して再公営化を進めなければならかったという事実が示されたのだ。
水メジャーの社員が内閣府の政策調査員に
そればかりではなく、不透明な問題も持ち上がった。そのひとつが上記の福田氏の突然の辞任であり、もうひとつがヴェオリア社の女性社員が内閣府の「民間資金等活用事業推進室」に政策調査員として2017年4月1日から2019年3月31日までの予定で出向していることだ。ヴェオリア社はフランスの多国籍水処理企業で、世界で上下水道の民営化を扱って成長してきた。この出向者の任期はまさに水道民営化のための審議の期間に重なっている。
これを明らかにしたのは11月29日の参議院厚生労働委員会で社民党の福島瑞穂参議院議員。
「もっともこの法案で利益を得る可能性のあるヴェオリア社、水メジャーですよね。まさにその担当者がPPP推進室にいる。これって受験生が採点者になって、自分の答案をこっそり採点しているようなものではないですか」また福島氏は12月4日の参議院厚生労働委員会で、PFI法改正案が審議された2018年6月12日参議院内閣委員会で当該女性職員が大臣の補佐をしていたことを暴露したが、内閣府は「単に資料を持参したりメモを取っていた」と女性職員と同法案との深い関与を否定した。
しかしこの女性職員は「GJジャーナル(下水道女子ジャーナル)2016年7号」で、「官民連携により自治体の下水道事業運営をサポートするべく、処理場、管路等の施設運転管理を中心とした提案、業務支援を担当しています」と自己紹介するなど、PFIの専門家を自任している。政府が専門家である職員を雑務だけのためにわざわざ登用するというのは、どう考えてもありえない。
ヨーロッパ視察も、報告書は提出されず辞任
また11月9日に内閣府大臣補佐官を辞任した福田氏は、パリなどの水道民営化について視察するために2016年、2017年、2018年と3度にわたって渡欧している。3度目は2018年10月で、辞任の直前だ。
福田氏の辞任理由は「業務に一定の区切りがついたため」とされているが、最後の仕事となった10月のヨーロッパ視察の報告書はいまだ公表されていず、中途半端な印象は否めない。
「一区切りというのなら、(PFI法改正法が成立した)6月ではなかったか」
福島氏が指摘する通り、この時期の福田氏の補佐官辞任はまったく矛盾に満ちたものとしか言いようもないが、その真相が究明されることは永遠にないだろう。
12月6日の衆議院本会議で改正水道法が成立。翌7日には外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法や漁民法の改正法も成立するはずだ。そして臨時国会は延長されず、12月10日に当初の予定どおりに閉じられる。
この記事は、水道法だけでなく、漁業権や外国人受け入れにも言及して優れた記事である。一方、水道法をめぐる多くの議論は、水道管の老朽化や、過疎化、高齢化など、水道事業に民間業者を入れるために考えだされた理屈をめぐったこまごまとした部分に終始しがちで、この記事のように、大きな流れの中でとらえた議論は少ないのが実情であろう。
水道法に限らず、すべての動きは、人は生命であり、生命は利己的であるという事実と、言語という存在が、人に幻想を見させているという事実を踏まえて考える必要があるはずである。
現代社会は、言葉という武器を使って、自分にとってできるだけ有利な状況を作り出そうとする人々(国際金融資本)の利己的な意図に基づいて作られている。ただし、動物や植物、微生物なども互いに利己的な意図を持ちつつ多様性があり、相互に依存する生態系を作り上げているように、国際金融資本の存在も、私たちと対立するだけでなく、単に利己的であるだけではなく、安全な水を安定供給するためにも役立って、私たちが生きやすいようにするような働きをしている場合もあるだろう。
現代社会は、国際金融資本の利己的な意図によって作られ、国際金融資本の都合のよいようにできているのだが、これを前提としていない議論が多すぎることが、一番の問題であろう。以前の私も、国際金融資本が描いて見せる現代社会の姿を本物であると思い込み、実際にはまったく違う姿をしていることについてまったく意識することはなかった。けれど、東洋経済の記事が暴いているのは、国際金融資本がどう動いて、人々を操り、利益を得ているのかという実例である。太字にした部分の裏にはすべて国際金融資本による統制が働いている。しかも、国もまた、国際金融資本の意図通りに動くことしかできていないのである。
国際金融資本は、人類とは合理的な存在であり、さまざまな課題を議論や技術力によって解決していくことのできる存在であるという虚構を描いてみせる。キリスト教という肉体性を失った宗教の価値観を幹に据えて、世界全体をこの嘘の価値観に合わせて作り上げていく。その結果、人は、動物のように生きることのできない存在となり、肉体性を否定されて、理想に向かっていると思い込むしかないなかで、実際には経済活動のコマとなってしまっている。こうした全体像を理解していない議論が、国際金融資本を利することにしかならない政策を作らせ、人々を苦しませるだけの社会を作り上げていくのである。
学校教育で教えることは嘘ばかりであり、マスコミが流す情報も嘘ばかりであり、本に書かれていることも嘘ばかりである。なぜなら、それらはすべて国際金融資本の支配下にあるからである。人は動物として生きるしかなく、動物として生きることで幸せを得ることができる存在なのだが、そうした生き方をされていては利益を得られない国際金融資本は、動物のように生きる人を犯罪者とすることができる社会を仕立てあげてしまった。
根本解決に向かうには、現代社会が国際金融資本の意図に合わせて作り上げられているという事実を踏まえて、解決策を探っていくしかないのである。国際金融資本の存在を否定していては、国際金融資本の流す情報に影響されて、本質から外れた議論の繰り返しになってしまうのだから。
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