万葉集の言葉と心 (1975年) 中西 進 (編集) 228ページ 毎日新聞社

昭和49年に2日間にわたって行われた講演とシンポジウムを元に編集された、古代アジアの文化の中に置いて『万葉集』を解釈する取り組みの記録。

 
日本語はどこでどのようにしてできたのかを知るうえで役立つかもしれないと考えて読んでみました。

「東アジアの古代文化を考える会」が毎日新聞社と共催した2日間にわたる講演とシンポジウムを元にしているということで、土橋寛、中西進、大野晋、金思燁、大岡信、永井路子の各氏による講演と、これらの講演者から大岡信氏を除き、水島義治、鈴木武樹の2氏を加えた出席者によるシンポジウムの内容が収録されています。

東アジアの文化の中に置いて解釈するとありますが、講演者によってその比重は大きく異なり、ほぼ万葉集に限定した内容になっている講演もあります。

・中国発祥の神仙思想の影響や天皇の概念の成立(土橋)。
・大津皇子の周辺に朝鮮渡来人の影響を探りながら、詩歌の成り立ちを推測(中西)
・万葉集の言葉から、アルタイ語族の世界観を含めて「スメラ」の意味や「天」と「海女」といういずれも「アマ」と発音する単語の関連性を探る(大野)
・日本にはいない虎が生活の中で遭遇する可能性のある存在として詠まれた歌や、朝鮮語の知識がないと解釈できない歌、朝鮮の双六のような遊びの知識が背景となっている歌をあげて、「万葉集」の中の朝鮮語を取り上げる(金)
・万葉集第十六巻に道化の精神を見る(大岡)
・万葉集から自己犠牲やますらおぶりのみをとりあげて戦争に利用された時代のことを背景に、文学作品と時代精神や、政治と文学について語る(永井)

大野さんの講演からは、須弥山とスメルの語源が同じであり、この本にはありませんがsummitとも関連しているらしいことや、日本語の成立を考える際にアルタイ語族の世界観を参考にできることを知りました。

また、論者ごとに着目点が大きく異なることから、この本を元に新しい着想が生まれることも多そうです。

日本語の母体となったのがいつごろ日本にやってきた人々の話している言葉だったのかを推測できるような内容はありませんでしたが、楽しく読むことができました。