頭山満伝―ただ一人で千万人に抗した男 (日本語) 単行本 – 2015/8/6 井川聡 (著) 単行本: 624ページ 出版社: 潮書房光人新社

私たちは野口英世や渋沢栄一のことは教わっても、このアジアの真の独立を目指した人物のことは教わらない。

 
謎の探検家菅野力夫』で頭山満という人物を知りました。

この本は、安政二年(1855)生まれの頭山満が、明治12年(1879)の暮れに西南戦争の薩摩軍の生き残りである野村忍介を鹿児島に訪ねる場面から始まります。西郷隆盛の精神は生きているといって、福岡からはるばる歩いてきたのでした。

大きな活字が使ってあるとはいえ、600ページを超えるこの厚い本は、臨場感を与えるために、実際に目にすることも記録に残ることもない、こうした対面の場面の会話を書き込むなどフィクションではありますが、左手中指の切断の原因を探る部分(227ページから)の記述などを読むと、できるだけ真実を伝えようという姿勢で書かれていると感じます。ただし、美化されているという批判もあるようです。

旧福岡藩(黒田藩)士が中心となって、1881年(明治14年)に結成されたアジア主義を抱く政治団体の玄洋社の設立や、孫文を支援したことや、植民地支配を脱しようとするアジアの人びととの関りなどから、戦後の老年まで記されています。

この本には、多くの人名が登場し、肖像写真も多数収録されていますが、前述の本を読むまで、頭山満という名前を知らなかったことはもちろん、玄洋社に関係する人びとはまったく聞いたこともない人たちであることに私は驚きました。これまで知らなかった分野の本を読んだときに体験する「こんな世界もあったのだな」という驚きをこの本からも受けることになりました。

終わり近くにありますが、明治34年に雑誌『冒険世界』が行った痛快男子十傑の投票で、乃木希典や大隈重信らを抑えて1位に選ばれた頭山のことを、今の私たちはほとんど教わらなくなりました。『謎の探検家菅野力夫』を読んだときにも感じたのですが、こうした民族の誇るべき先人について教わらないことは、大いに問題があると私は思います。

一人の人物の人生を通じて、時代の流れを知ることによって、教科書や新聞から得る物とは違う歴史の見方ができるということも感じました。たとえば、外国人労働者の必要性を主張する記事が新聞に掲載される時世になっていますが、朝鮮併合の背景として日本人移住者の増加があったことや、大正時代に米国で排日移民法ができたことなどを振り返れば、そうした移民を受け入れることの重大性を再確認することにもなります。

一度触れてみるとよい内容かと思います。