異郷 西江雅之の世界 単行本 – 2012/4/28 西江 雅之 (著, 写真) 208ページ 出版社: 美術出版社

ハダシの言語学者兼文化人類学者が1967年から2010年までに撮影した写真と、発表したエッセイの再録作品。東アフリカ、カリブ諸島、ニューギニアなど、黒い肌が目立つ。

「ことば」の課外授業―“ハダシの学者”の言語学1週間』の西江雅之さんのエッセイと写真を収録した本です。エッセイは再録ですが、全面的に加筆修正されているそうです。時代は1967年から2010年に渡りますが、1960年代1篇、1980年代3篇、90年代2篇、残り8篇が2000年以降なので、比較的新しい時代が多くなっています。

主に、言語学的興味から訪問先が選ばれているようで、インド洋の小島、東アフリカの荒野、カリブ海、パプアニューギニアという、通常の旅行者があまり訪問しないであろう場所が中心になっています。

巻頭と巻末のそれぞれ4分の1ほどのページがエッセイ、その中間は写真のみを収録したカラーページという構成です。カラー写真自体には説明はなく、巻末に写真の説明がまとめて掲載されているので、不便といえば不便ですし、逆にどこなのかを推測する楽しみがあります。


「異郷」と題されたこの本に登場している人々は黒い肌をした人々がほとんどです。言語学と文化人類学に対する興味がそうした場所に西江さんを導いだのでしょう。街の暮らしもあれば、自然の中の暮らしもありますが、やはり目を引くのは、裸に近い姿で、自然の中で生きる人々の動物的な生き方を撮影した写真です。

マーガレット・ミードが研究者として歩き始めたマヌス島は、百年前の生活がほとんど変わっていないトロブリアンド諸島と同じパプアニューギニアにありながら、100人乗りのジェット機が発着し、「世界情勢」などという言葉が日常的に存在する世界へと変貌を遂げていました。このマヌス島でこの本は終わっています。

自然の中で暮らす人々は、殺し殺される世界に生きているという状況が、この本では何度か示されています。けれども、「世界情勢」を意識しなければいけない世界を作り上げているのも、その殺し殺されることを前提として存在している命なのだけれどな、と私は考えてしまいます。

ニューギニアのシンシンを撮影した写真が多い点は、万遍のない内容を期待する側からすると少し不満です。全体的に女性の姿が目立ち、生活を写していても比較的ゆったりした時間の流れを感じる写真が多く、「世界情勢」に組み込まれる前の世界の名残が感じられます。

自然の中で生きる人たちが消えて、人類学の研究対象がつまらない些末な事象ばかりになってしまいました。