「ヤナの森の生活」ヤナ(著)ケイコ・フォレスト(訳)(WAVE出版 2012年2月)

素敵すぎる生き方と賛同できない価値観と

多くの共感があり、新しい知識を得ることができました。

・仲間たちといつも話している昔ながらの村のくらし。子どもたちは小さい頃から村びとたちの語るありのままの会話を聞いて日々の暮らしや人づきあいの仕方を学び、女は女どうし、男は男どうし、それぞれの仕事のことを学ぶ。

・5人の子どもを産んだがどの子にも4歳まで母乳をあげていた。

・スペルト小麦は現在の小麦の原種にあたる古代の穀物。

・南米アンデスの穀物「キヌア」。キヌアはグルテンを含まない。

・20数年前はじめて近くのビーチにきたとき、所持金は10ドルだけだった。お気に入りの木にハンモックを張り、アクセサリーを作ってはこのハンモックに飾って売った。

・食べ物と水、眠る場所があれば生きられる。

・森をつくるとき最初に思い浮かんだのは、子どもたちがお腹のすいたときに歩きながら熟れた実をとってたべられるようにしたいということだった(「クリエイトガーデン」)。

・フランス人と日本人は繊細で細やかな部分まで美意識が感じられるところが似ている。

・火を使うことで生きることがもっとリアルに感じられる。

・女たちはもっと頻繁にたくさん集まるべき。

・トイレは穴を掘っていたが、2つのバケツに変わった。小(ピー)はたまるとすぐにバナナに。大(プー)は熟成させてから畑や果物の木の根元にまく。

・12歳の末娘は当初ホームスクーリングだったが、近所の子どもたちが加わって拡大していった小さなオルタナティブスクールに通っている。

・「村」が機能している文化では、高齢者に対する尊敬と畏敬が自然に生まれる。夜になれば火を囲んで長老の話に聞きる幼少期が大切。

・大地は朝空気を吐き出し、夜吸い込む。湿気の多いときは朝耕し、乾燥しているときは夕方に耕す。

・傷の治りが悪いときは弱っている証拠。ポテトやニンジンなど糖分の多い食べ物を食生活からできるだけ除くとよい。

・体が酸性に傾いたときは、アルカリ性の強いノンアルミニウムのベーキングソーダをひとつまみした水をのめば十分。

・コーヒーを飲むときはチコリーも必ず一緒に入れて酸性を中和する。

・生計は多めに作ったものをファーマーズマーケットで売って立てている。

・両親から付けられた名は聖ドミニクに由来するドミニックであった。彼は、教会にいかず自然のなかに神の存在を感じていたひとびとを磔にした魔女狩りを行った人物だった。


私がこれまでに読んできた本たちと同じ回答がここにあります。
小規模な社会は『豚と精霊』につながる価値観です。

四歳まで母乳で育てるという子育ての仕方は、チンパンジーにも、ブッシュマン(グウィ)にも、『愛は化学物質だった!?』にも通じます。

果物を豊富に食べるあり方は、『フィット・フォー・ライフ ——健康長寿には「不滅の原則」があった!』や『偏食のすすめ』と共通しています。

また、食べ物で健康になるという『家庭でできる自然療法』と共通する考え方も見られます。

小麦についての話は、『小麦は食べるな!』と一致しています。グルテンを含まない穀物については初耳でした。



読みながら、もっと早く知りたかったと思いました。
ところが、だんだん反感のほうが強くなりました。
古代ハワイ人の世界観 人と神々と自然の共生する世界』にあるように、ハワイの人びとは自然を守ることを人間の使命のように考えて暮らしていました。この土地を奪って単一作物栽培の広大な果物畑を作り、観光地として開発し、もともとのハワイの人びとを下層市民にしてしまったのは、ヤナたち西洋人なのに何を言っているのだということを言いたくなったからです。

また、『森の猟人ピグミー』、『身体の人類学 カラハリ狩猟採集民グウィの日常行動』などで狩猟採集生活について知るようになった今では、自由、愛、自分らしい生き方などの価値観は、むしろ自然と調和した暮らしと相容れない価値観のように感じます。狩猟採集の暮らしでは、自然環境の維持が何よりも優先されるためです。
逝きし世の面影』に描かれた、自然豊かで動物たちを愛して暮らしていた日本は、開国を強要されて、公害と労働問題を生みながら経済活動にまい進する国に変えられ、ヤナのような生き方を捨てさせられました。経済活動に人々を否応なく巻き込んできたのが誰なのかを考えず、ヤナの生き方に感動するだけでは終わらせることができないと私は思います。

このような生き方でどんなにメッセージを伝えていても、このような生き方をできなくした根本のところを伏せていては何の意味もありません。多くのことを学べる本でしたが、極めて重要な点が欠落した本でもあると私は思います。