「動物たちの自然健康法―野生の知恵に学ぶ」シンディ・エンジェル(著)、羽田節子(訳)(紀伊国屋書店 2003年11月)

超能力を持たない動物たちは多様性を持つ環境の中で生き残りの確率を上げて生きる

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動物たちは植物や昆虫をさまざまな用途に利用しているようだ。
・粘土は解毒に利用される。
・ジリスは毒ヘビを挑発して、蛇毒を自己治療に利用している可能性がある。
・羽アリの蟻酸は鳥などにとって殺虫剤になる。
・匂いの強い新鮮なハーブはヨーロッパホシムクドリの巣を寄生虫から守る。

動物たちがこのような行動を摂る理由はわからないが、彼らの手法は劇的な効果を発揮するのではなく少しは効果があるという程度の対策のようである。

つまるところ、動物たちは本能的に行動しているというよりは、経験や感覚に基づいて、すこしでも快適になるように行動しているようである。

 

動物の神話のなかで捨てることができるのは、「動物はどの植物がどの病気に効くかまちがいなく知っている」というものである。 熟練した薬剤師のように特定の病気にたいして特定の療法を選ぶ動物がいるという証拠はほとんどない。 チンパンジーが内部寄生虫の不快をとりのぞくためにつかう毛のはえた葉は三四種にものぼることや、ホシムクドリが巣に運びこむ香りのある植物は個体群によって多種多様であること、 また哺乳類が皮膚をこするのにつかう植物の種類が多いことをみれば、動物が経験にもとづいておおまかに柔軟にみずからを治療していることがわかる。 – 290ページ

 

動物が利用する多くの薬物に共通する特徴は多機能性である。 つまりひとつの薬物にいろいろな薬効があるのだ。 健康を脅かすものはあらゆる方向から、さまざまな原因から、しかもしばしば同時にやってくるので、作用範囲の広い治療法をもつほうが有利である。 たとえば、土食は胃酸のバランスを整え、腸の内側をおおって保護し、食物といっしょに体内にはいった毒物を吸着し、そのうえ必須ミネラルを提供する。 ある動物にとってどの時期にどの働きがいちばん重要なのかは、かならずしもはっきりしない。 – 291ページ


本書では、このような動物たちの健康対策が、精神病や家族計画、死との遭遇まで含めて幅広く収集されている。
動物たちの健康対策は、西洋医学や民間療法よりもむしろ優れているともいえそうである。 また、健康を維持するためには環境の多様性が維持されていることと、さまざまな植物、土などを実際に口に入れてみたり、臭ったり触ったりしてみることが重要なのだという事実が見えてきそうである。

以下に本書で付箋を付けた内容(要約)を列挙しておきます。()内はページ数。

・人と動物には、健康について野生動物の研究からわかったことを無視できるほどの違いはない(14)
・オーストラリアの野生の有袋類は、旱魃や洪水、生息域の制限という条件がなければ、伝染病にも寄生虫にも癌にもほとんどかからない(22)。
・タンニンは下痢止めであり、化膿止めであり、抗菌剤であり、駆虫剤であり、坑真菌薬でもある(31)
・植物性生薬の薬倉はとてつもなく大きいが、昆虫も薬もとになる(39)
・薬と植物の区別は西欧以外の多くの医師(およびごく少数の西欧の医師)にとって、あまりはっきりしない(41)
・バイキング・スタイルで食物を選ばせると、動物は栄養バランスのとれたメニューを選ぶ(44)
・旱魃時、オーストラリアの小型有袋類はマグネシウムを求めて樹皮をはいで食べる(46)
・シカはミネラル(燐酸)を補うために、海鳥のヒナの肢や頭を食べる(49、50)
・ウマの言葉を解する男(モントリー・ロバーツの著書に登場する「ささやくウマ」)(65)
・モンティは16歳で野生のウマを操ってみせたがこっぴどく叱られた(66)
「馬と話す男―サラブレッドの心をつかむ世界的調教師モンテイ・ロバーツの半生」
・人間が少なくとも4万年に土を食べてきたという証拠がある(90)
・食用土の選び方を代々受け継いでいる人びとがある(103)
・野生動物は炭が体にいいことを知っていて、木の焦げる匂いがすると、群れをなしてやってくる(104)
・チンパンジーは糞便で汚れることにほとんど本能的な恐怖をいだいている(114)
・アンダマン諸島でジャラワ族がハシカによって壊滅的な打撃をうけている(114)
・絶食は細菌類が必要とする鉄分の供給を断つ手段になる(118)
・ゴリラは本来の食物を食べていれば、病原菌の繁殖が抑えられる(122)
・有毒なナス属の植物を定期的に食べる動物が多種おり、ホルメシスに関連しているようだ(124)
・ゴリラの回復力は驚異的だ(132)
・カナダのコヨーテとオオカミの死体から無数の肋骨に治癒痕が見つかった(133)
・ケニアの洞穴にはゾウの骨が多くころがっており事故を物語る(134)
・捕食者はたいていもっとも弱い個体を狙い、自分が怪我をする恐れがあると諦める(136)
・動物が痛みを感じるとわかったことで、実験動物はさらに痛みを加えられている(140)
・打ちすえたヘビの行動からチョウセンニンジンに近い薬草がみつかった(146)
・砂糖水はすぐれた傷薬であり鎮痛、抗菌作用がある(149)
・動物園のゾウは唯一利用できる植物である昼食のレタスで傷口をこすった(150)
・争いで大怪我を負った雌ゴリラは五歳になる娘の介護で回復した。シルバーバックは針金罠にはさまれた子ごりらの手をはずすのに、針金を犬歯でもちあげた(153)
・ゾウは血縁者、自種を越えて利他的に振る舞い、他者の要求に気付く能力が非常に発達している(153)
・マングースは毒ヘビに噛まれると薬草の汁を塗って免疫を付ける(154)
・ジリスは蛇を挑発して噛まれ、免疫に役立てているようである(156)
・アンダマン諸島のジャラワ人は体に粘土をにってカにさされるのを防ぎ、蜂蜜を集めるときは蜂蜜と植物の抽出液をまぜて、ミツバチの針から身をまもる(159-160)
・鳥と哺乳類は皮膚や毛皮や羽毛の手入れに多大な時間を費やし、相互グルーミングが役立つ(161)
・ゴンベのチンパンジーはダニのいる茂みを歩くとき、草の茂みを何度も叩いた(162)
・グルーミング困難な場所は異種間に互恵的な関係が成立する(163)
・オマキザルはさまざまな天然の物質を毛にすりこんで、害虫退治、痛みの緩和、痒みの緩和を行う(164)
・柑橘類には鎮痛、殺虫、抗菌の作用がある(165)
・ヤスデの汁は蚊よけに役立つ(165-166)
・「熊の薬」は局所麻酔剤、坑細菌剤である(168)
・イヌハッカの有効成分は害虫を追い払う効果が高い(169)
・ハリネズミはダニや刺す虫を避けるために刺激物を体に塗る(169)
・多くの動物が蟻酸を殺虫剤に利用する(171)
・柑橘類の果実は直接接触と揮発の二種類の作用がある(172)
・柑橘類で皮膚をこすると外部寄生虫や菌類やバクテリアの感染を治療でき、一挙に酔うような興奮も味わえる(172)
・健康な個体の尿は無菌で、尿洗いには冷却作用と殺菌作用がある(175)
・営巣するヨーロッパホシムクドリは多くの揮発油を高濃度でふくむ植物を選ぶ(176)
・伝統医学でもこの野生ニンジンは皮膚病に使われる(177)/もっとも複雑な香りをもつ植物が選ばれる(178)/寄生虫感染の症状、かさぶた、痛み、かゆみを抑える効果もありそう(178)
・ホシムクドリの使う植物は地域によって異なるが目的は同じ(179)
・第二次大戦前につかわれていた虫よけのほとんどは揮発性の植物二次化合物が原料(183)
・ダン・ジャンセンは1978年に植物化合物を使った動物の寄生虫退治を主張(189)
・西田利貞(197)
・オオカミの食べる草は下剤として働き寄生虫を追いだす(202)
・寄生虫の駆除には土食いが役立っている(212)
・ジャガーはヤヘーというつる植物の樹皮をかじって感覚の鋭敏化に役立てる(228)
・冷淡な母親に育てられたチンパンジーは母親による子殺しに加わった(240-241)
・人間は昔より長生きになったわけではない(271)
・チンパンジーも年寄りの世話をする(274)
・多くの動物は捕食者によって死を迎えるがストレスによる痛覚欠如のおかげで痛みはない(276)
・1958年にウォルトディズニーが作ったレミングの映画は人為的に追い落としたもの(278)
・ゾウは穴の中にいぬがいることを知って、丸太を落とそうとしなかった(282)
・ライオンを倒したゾウはリアゾンの遺骸を枝で覆った(284)
・チンパンジーは仲間の死体を見つけて警戒と恐怖の声をあげた(286)
・動物たちの健康管理について私たちは解答した以上に多くの疑問を掘り起こした(290)
・自己治療はホリスティックな見方をしないと理解できない(291)
・人類が費やした世代は狩猟採集で10万世代、農耕で500世代、産業革命後は10世代にすぎない(318)
・考古学的証拠によると狩猟採集民であった祖先はがっしりとたくましく、細身の体で老年になっても健康だった(318)
・大事なことは先史時代人がゴリラなどと同じく多様な植物を食べていたことである(318)
・ゴリラは繊維の60%をエネルギーに変えるが人間は4%にすぎない(319)
・伝統的な食事を摂る今日の狩猟採集社会の人びとも癌や心臓病、糖尿病、骨粗鬆症が少ない(319)
・農耕によって選ばれた植物はおいしいが刺激的な二次化合物の含有が少なく、薬効が低い(320)
・農耕社会でもナイジェリアのハウサ族は野生の薬用植物を利用して健康を保つ(320-321)
・マサイ族は動物性食品を食べるときにひじょうに苦い抗菌化性の薬草を混ぜる(321)
・野生動物の健康をささえている積極的な自助戦略は、自然をロマンチックに理想化したものではなく、自然淘汰をつうじて生まれたものである(327)