ミステリアス―謎学・世界の遺跡と伝説の地 単行本 – 1990/11 ジェニファー ウェストウッド (編集), 大出 健 (翻訳), 大日本絵画

2019年3月10日

謎に包まれた遺跡や伝説の地は、多くの技術や都市が失われる事実や、私たちが私たち自身について知らないことの多さを教えてくれる

たまたま手に入ったので読んでみました。翌年Part IIも出版されています。

聖なる場所(ストーンヘンジ、ギーザの第ピラミッド、メッカなど)、不思議な景観(ナスカ、イースター島など)、古代都市(マチュピチュ、アンコール、トロイアなど)、失われた大地(アトランティス、エルドラドなど)という切り口から謎を取り上げてあります。さまざまな学問分野からこれらの謎を探求する方法とその成果をできるだけ客観的に紹介するという編集方針がとられています。

こうした読み物は子どもの頃に読むことが多く、不思議だなあと感じるだけで終わってしまいがちなのではないでしょうか。大人になって読み返すと、子どもの頃以上に、謎が解けていないことの重要性を感じるようになっていました。

第1章「聖なる場所」の冒頭に、次のように記されています。

きみにも、ぼくにも
ストーンヘンジやシャルトル大聖堂などは……
作り手の名こそ違うが、同じ「昔の人」の作品だとわかる
かれらが何をつくったかは、知ることができるし
かれらが何を考えたのかさえ、知ることができる
だが、なぜ、どうして、ということは永遠の謎のままだ
……W・H・オーデン

私たちは、科学技術が進んで、いろいろなことをわかったような気になっているけれど、実際にはわからないことだらけなのだということを思わされます。

世界各地に巨石を使った遺跡があったり、石器時代のビーナスと呼ばれる妊婦と思われる像があったりしますが、なぜ、共通した心理を持ったのかを私たちはまだ知りません。そうした謎を解くこともできないのに、人は理性に従って行動するかのように、理屈を組み合わせて法や仕組みを作り上げている現代文明はなんと愚かなのでしょうか。

失われた地や都市は、自然災害や気候変動の影響の大きさを示しているようです。アトランティスの候補であるサントリニ島は紀元前1520年頃の火山噴火の残骸です。北米インディアンの石造集落チャコ・キャニヨンは金属を使わない社会としては異例な5000人の人口まで栄ながらおそらくは気候変動の影響によって捨て去られることになりました。

アンコールワットやマヤでは、都市が捨て去られています。その背景は不明です。

1万2千年ほど前から人類が始めた定住や農耕という新しい在り方が、人類の技術力だけでなく、精神や価値観にも影響を与える中で、この本にあるような謎が残されてきたのだろうと私は受け止めています。社会制度や儀礼を発達させることのない、遊動する狩猟採集生活と対比させることで、「なぜ」にも踏む混むことができそうな気はしていますが、どうでしょうか。少なくとも、私たちはまだ私たちについて知らず、地球という舞台が平穏である期間はそう長くはないのだということを、私は強く感じました。